内定後の労働条件通知書|どこを見るか・2024年に増えた項目

向かい合って書類の内容を説明し合っている2人 働き方と契約

「内定が出たから、あとは入社を待つだけ」「送られてきた書類は、ざっと見て返せばいい」——そんなふうに考えていませんか。結論から言うと、労働条件通知書は、入社前に会社を確かめられる最後の機会です。面接で聞けなかったことも、求人票になかったことも、ここで文字になって出てきます。

この記事では、厚生労働省のモデル様式をもとに、どの欄の何を見るかを順番に説明します。読み終わるころには、どの欄を見て何を確かめればいいかが決まります。

内定はゴールではない。紙が出てから確認する

労働条件通知書は、会社が労働者に労働条件を明示するための書面です。労働基準法15条で、使用者は労働契約の締結に際して賃金・労働時間などの労働条件を明示しなければならないと定められています。

渡され方には決まりがあります。

書面での交付が原則です。ただし労働者が希望する場合には、FAXや電子メールなどでの明示も認められています。ここには条件があって、出力して書面を作成できるものに限られます。

つまり、画面で見せられただけ、口頭で説明されただけ、というのは想定されていません。手元に残る形でもらってください。

労働条件通知書は、労使間の紛争を未然に防ぐために、保存しておくことがすすめられています。

厚労省自身が「取っておけ」と言っている書類です。入社後に「そんな話はしていない」となったとき、これが唯一の根拠になります。

出典:厚生労働省モデル労働条件通知書「労働契約(契約の締結、労働条件の変更、解雇等)」/2026年9月12日確認

2024年4月に増えた「変更の範囲」を最初に見る

2024年4月から、労働条件の明示事項に「就業場所・業務の変更の範囲」が加わりました。労働基準法施行規則第5条の改正によるもので、すべての労働契約の締結時が対象です。正社員の転職も当然含まれます。

通知書の欄は、こう分かれています。

何が書かれるか
就業の場所(雇入れ直後)(変更の範囲)
従事すべき業務の内容(雇入れ直後)(変更の範囲)

「変更の範囲」とは、将来の配置転換などによって変わり得る就業場所・業務の範囲のことです。

つまり、こういうことが読み取れます。

  • 「雇入れ直後:東京本社/変更の範囲:全国の支店」と書いてあれば、転勤があり得る会社です
  • 「雇入れ直後:Webマーケティング/変更の範囲:当社の全業務」と書いてあれば、何をやらされてもおかしくないということです
  • 逆に、変更の範囲が雇入れ直後と同じなら、その職種・その場所に限定された契約ということになります

面接で「転勤はありますか」と聞いて「基本的にはありません」と言われた人こそ、ここを見てください。口頭の「基本的に」と、書面の「変更の範囲」は別物です。ずれていたら、承諾する前に確認するべきです。

この項目は2024年4月に始まったばかりで、求職者向けの解説はまだ多くありません。会社側も慣れていない可能性があるので、記載が曖昧なら質問して構いません。

なお、有期契約(契約社員など)の場合は、さらに項目が増えます。更新上限(通算契約期間または更新回数の上限)の有無と内容、そして通算5年を超えて無期転換の権利が発生するタイミングでは、無期転換申込機会と無期転換後の労働条件も明示されます。有期で入る予定なら、この欄も必ず読んでください。

出典:厚生労働省「令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます」およびリーフレット「2024年4月から労働条件明示のルールが変わりました」/2026年9月12日確認

面接段階で会社を見極める方法はブラック企業の見分け方に、確認のための質問の仕方は面接の逆質問にまとめています。

通知書に書かれることの全体像

モデル様式に沿うと、通知書はおおよそ次の構成です。どこに何があるかを先に掴んでおくと、読み落としが減ります。

主な内容
契約期間期間の定めなし/あり(有期なら更新の有無・判断基準・更新上限)
就業の場所雇入れ直後/変更の範囲
従事すべき業務の内容雇入れ直後/変更の範囲
始業・終業の時刻等始業終業時刻、休憩時間、所定時間外労働の有無、変形労働時間制やフレックス・裁量労働制の別
休日定例日(毎週◯曜日など)、非定例日
休暇年次有給休暇(6か月継続勤務した場合→◯日)、時間単位年休の有無、その他の休暇
賃金基本賃金、諸手当の額または計算方法割増賃金率、締切日、支払日、支払方法、控除、昇給・賞与・退職金の有無
退職に関する事項定年制、自己都合退職の手続解雇の事由及び手続
その他社会保険の加入状況、雇用保険の適用、企業年金制度、相談窓口

最後には「以上のほかは、当社就業規則による。就業規則を確認できる場所や方法( )」という欄があります。

ここが空欄なら、聞いてください。就業規則は労働基準法により労働者への周知が義務付けられていて、必要なときに容易に確認できる状態にしておく必要があります。通知書に書ききれない細かい条件は、すべて就業規則側にあります。

給与欄で見るところ

基本給の額だけを見て終わらないでください。見るべきは3つです。

①基本賃金と諸手当の内訳

モデル様式では、「基本賃金」と「諸手当の額又は計算方法」が別の欄になっています。提示された月給が、どこまで基本給で、どこからが手当なのかを確認してください。

手当の比率が高い場合、その手当が支給されなくなる条件があるかもしれません。「◯◯手当」という名前だけで額が書かれていない、計算方法も書かれていない場合は、必ず聞いてください。

②割増賃金率が法定を下回っていないか

ここは自分で照合できます。法律で決まっている下限は次のとおりです。

種類法定の割増率
法定時間外労働25%以上
法定時間外労働のうち月60時間を超える部分50%以上
法定休日労働35%以上
深夜労働25%以上
法定時間外+深夜50%以上
月60時間超+深夜75%以上
法定休日+深夜60%以上

通知書の割増賃金率の欄と、この表を突き合わせてください。下回っていたら、その時点で法令に反している可能性があります。

③昇給・賞与・退職金の「有無」

モデル様式では、それぞれ「有(時期、金額等)/無」を書く形になっています。「有」に丸がついていても、時期や金額が空欄なら、実態は約束されていません。求人票に「賞与年2回」とあったのに通知書が空欄、というずれはよくある場所です。

年収の考え方そのものは転職で年収を上げる方法にまとめています。

労働時間欄で見るところ

①所定時間外労働の有無

「有」か「無」かの単純な欄ですが、ここが「有」なら残業が前提の契約です。

②働き方の制度が特殊になっていないか

モデル様式では、次のどれが適用されるかを選ぶ形になっています。

  • 通常の始業・終業時刻
  • 変形労働時間制(1か月単位・1年単位など)/交替制
  • フレックスタイム制(コアタイム・フレキシブルタイムの時間帯)
  • 事業場外みなし労働時間制
  • 裁量労働制

下の3つが選ばれている場合は、残業代の考え方が通常と変わります。求人票では見えにくい部分なので、通知書で初めて気づくことがあります。内容が分からないまま承諾しないでください。

③年次有給休暇の付与日数

「6か月継続勤務した場合→◯日」という欄です。年次有給休暇は6か月間継続勤務し、その間の出勤率が8割以上であるときに与えられます。入社してすぐに使える会社かどうか(継続勤務6か月以内の年休の有無)も、この欄で分かります。

有給の仕組みは有給消化と退職日の決め方で詳しく扱っています。

「その他」欄は、次に辞めるときに効いてくる

通知書の最後のほうに「その他」という欄があります。地味ですが、ここは飛ばさないでください。

書かれるのは主にこの3つです。

  • 社会保険の加入状況(厚生年金・健康保険)
  • 雇用保険の適用(有・無)
  • 企業年金制度・中小企業退職金共済制度の有無

「試用期間中は社会保険に入れない」と言われたら、疑ってください。

厚生年金保険の被保険者になるのは、適用事業所に常用的に使用される70歳未満の人です。この「常用的に使用される」とは、雇用契約書の有無などとは関係なく、適用事業所で働き、労務の対償として給与や賃金を受ける使用関係のことです。試用期間中でも報酬が支払われる場合は、使用関係が認められます。

試用期間については、後半ではっきり書かれています。つまり「試用期間だから加入させない」という説明には、制度上の根拠がありません。

雇用保険の欄が「無」だった場合は、もっと直接的な影響があります。

自己都合で辞めた場合、失業保険(基本手当)を受け取るには離職の日以前2年間に被保険者期間が通算12か月以上必要です。雇用保険に入っていない期間は、この12か月に一切カウントされません。

入社時のこの1行が、次に辞めるときの生活費に効いてきます。金額の目安は失業保険は20代でいくら?で計算しています。

健康保険も同じです。会社の健康保険に入っていれば、辞めたときに任意継続という選択肢が生まれます(退職日までに被保険者期間が継続2か月以上あることが条件)。入っていなければ、その選択肢は最初からありません。退職後の手続きは退職後の健康保険と年金の手続きにまとめました。

欄が空欄、または「無」になっているなら、理由を確認してください。

出典:日本年金機構「適用事業所と被保険者」/2026年9月12日確認

退職・解雇の欄も読む

入る前に辞める話を読むのは気が進みませんが、ここは必ず目を通してください。

①自己都合退職の手続

モデル様式では「退職する◯日以上前に届け出ること」という形式です。この日数は会社によって違います。次に転職するときの段取りに直接効いてきます。

②解雇の事由及び手続

どういう場合に解雇されるのかが書かれている欄です。「詳細は就業規則第◯条」とだけ書かれていることも多いので、その場合は就業規則を確認してください。

③相談窓口

「雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口」として、部署名・担当者・連絡先を書く欄があります。空欄のまま渡してくる会社は、そもそも体制がない可能性があります。

退職の進め方そのものは退職の流れにまとめています。

話が違ったときにできること

条件を確認して入社したのに、実際は違った。そういうときのために、法律に規定があります。

労働基準法15条2項明示された労働条件が事実と相違する場合、労働者は即時に労働契約を解除することができます。

通常、退職には手続きと期間が必要です。しかしこの規定に当てはまる場合は、即時に契約を解除できます。

ただし、注意してください。この条文があるからといって「話が違ったら辞められる」と単純に考えるのは危険です。何が「相違」に当たるかは個別の事情によります。自分のケースが該当するかどうかは、自分で判断せず労働基準監督署または都道府県労働局に相談してください。相談は無料です。

そして、ここでも通知書が効いてきます。「明示された労働条件」を証明するのは、あの紙です。保存しておくよう厚労省が勧めているのは、このためです。

(相談先は都道府県労働局・労働基準監督署の所在地一覧から探せます)

承諾前チェックリスト

  • 書面(または出力できる形)で受け取ったか。保存したか
  • 就業場所の「変更の範囲」を見たか。転勤があり得る書き方になっていないか
  • 業務内容の「変更の範囲」を見たか。「当社の全業務」のような広い書き方になっていないか
  • 面接で聞いた話と、書面の内容がずれていないか
  • 基本賃金と諸手当の内訳が分かるか。額または計算方法が書かれているか
  • 割増賃金率が法定の下限を下回っていないか
  • 昇給・賞与・退職金が「有」なら、時期や金額まで書かれているか
  • 所定時間外労働の有無を見たか。裁量労働制・みなし・変形が適用されていないか
  • 年次有給休暇の付与日数を見たか
  • 社会保険(厚生年金・健康保険)と雇用保険の欄が埋まっているか。「無」なら理由を確認したか
  • 自己都合退職は何日前までに届け出る決まりか
  • 就業規則を確認できる場所が書かれているか
  • 相談窓口の欄が埋まっているか
  • 分からない項目を、そのままにしていないか

曖昧な欄が残っているなら、承諾する前に聞いてください。入社後に聞くより、はるかに簡単です。

そして、比べる相手がいないと判断が難しいのも事実です。1社しか受けていない場合、提示された条件が相場なのかどうか分かりません。転職エージェント経由で応募していれば、条件面の確認や交渉を代わりにやってもらえます。

読んだ結果どうしても合わないと感じたら、ことわって構いません。その場合の伝え方と、法律上どこまでできるかは内定辞退の伝え方にまとめています。

転職エージェントについてはマイナビジョブ20’sの評判第二新卒エージェントneoの評判で解説しています。使うかどうかの判断は転職エージェントのデメリットも読んでから決めてください。

まとめ

  • 労働条件通知書は入社前に会社を確かめる最後の機会書面交付が原則で、メール等は本人が希望した場合のみ(出力できる形に限る)
  • 厚労省が保存を勧めている書類。入社後に話が違ったとき、これが根拠になる
  • 2024年4月から「就業場所・業務の変更の範囲」の明示が義務に。入社後にどこまで変わりうるかが事前に読めるようになった
  • 面接で聞いた「基本的に転勤はない」と、書面の「変更の範囲」は別物。ずれていたら承諾前に確認する
  • 給与欄は基本賃金と諸手当の内訳、そして割増賃金率が法定下限(時間外25%・月60時間超50%・法定休日35%・深夜25%)を下回っていないか
  • 昇給・賞与・退職金は「有」でも時期・金額が空欄なら約束されていない
  • 裁量労働制・みなし・変形労働時間制が適用されていないか。残業代の考え方が変わる
  • 話が違った場合、労働基準法15条2項で即時解除の規定がある。ただし該当するかは個別事情なので労働基準監督署に相談する
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