「これ、何をもらっておけばよかったんだっけ」「返すものは全部返したかな」——そんな心当たりがありませんか。結論から言うと、「まだ届かないな」と待つ必要がない場面が、意外とあります。もらう書類のうち2つには法律で交付の義務と期限があり、最後の給料も請求すれば7日以内に払わせられます。
この記事では、もらうもの・返すもの・請求できるお金と、届かないときに何ができるかを整理します。読み終わるころには、辞める日までに何をもらい、何を返せばいいかが決まります。
退職時のやり取りは「もらう・返す・払ってもらう」の3つ
全体像はこうなります。
| 主なもの | ポイント | |
|---|---|---|
| もらう | 離職票/雇用保険被保険者証/源泉徴収票/退職証明書 | 源泉徴収票と退職証明書には法律の期限がある |
| 返す | 健康保険証(資格確認書)/社員証・名刺/貸与品 | 返却が遅れると保険の手続きが止まることがある |
| 払ってもらう | 最後の給料/未払い残業代/精算金 | 請求すれば7日以内(労働基準法23条) |
このうち、放っておいて自動的に届くとは限らないのが「もらう」です。
なお、もらう・返すのやり取りとは別に、その場で署名を求められる書面を渡されることがあります。秘密保持や競業避止が書かれた誓約書のどこを読むかは、退職時の競業避止と秘密保持にまとめました。
もらう書類①:離職票と雇用保険被保険者証
離職票(雇用保険被保険者離職票-1・-2)は、失業保険(雇用保険の基本手当)の手続きに必要です。次の転職先が決まっていて空白期間がないなら使いませんが、少しでも間が空く可能性があるなら必ず受け取ってください。
会社がハローワークに届け出て、ハローワークが交付し、それが本人に届く流れなので、退職日にその場でもらえるものではありません。
ただし、会社側の手続きには期限があります。事業主は、被保険者でなくなった日(=資格喪失日。退職日の翌日にあたります)の翌日から起算して10日以内に、雇用保険被保険者資格喪失届を提出しなければならないことになっています(離職票が必要な場合は離職証明書を添えます)。本人への交付そのものに「何日以内」という定めはありませんが、その前段には期限があるということです。
つまり、待たされているときに聞けることがあります。「10日以内の届出は済んでいますか」と確認すれば、会社の手続きが止まっているのか、ハローワーク側の処理を待っている段階なのかが分かります。「期限がないから待つしかない」わけではありません。
そして行政も、事業主に対してはっきり求めています。
「資格喪失届」「離職証明書」の提出が遅れ、被保険者でなくなったことの確認が行われていない場合には、失業給付が受けられないなど離職者に非常に不利益となりますので、事業主は遅れずに手続きを行ってください。
離職票も、事業主から離職者へ速やかに交付することになっています。待たされることが前提の書類ではないということです。
それでも届かないときは、ハローワークから会社に対して「離職証明書」の提出を指導してもらえます。
出典:北海道ハローワーク(ハローワーク札幌)「Q&A ~雇用保険の加入に関すること~」/2026年9月4日確認
失業保険の金額や受給の条件は失業保険は20代でいくら?にまとめました。
雇用保険被保険者証は、次の会社に提出する書類です。在職中は会社が預かっていることが多いので、退職時に返してもらいます。雇用保険の被保険者番号は転職しても引き継がれるので、この番号がないと次の会社の手続きが進みません。
基礎年金番号がわかるもの(基礎年金番号通知書・年金手帳など)も、会社が預かっているなら返してもらってください。国民年金への切り替えでも次の会社の手続きでも使います。
退職後の社会保険の手続きは退職後の健康保険と年金の手続きで詳しく扱っています。
もらう書類②:源泉徴収票は「1か月以内」が法律の期限
源泉徴収票(給与所得の源泉徴収票)は、退職の日以後1か月以内に交付しなければならないと決まっています。所得税法226条1項の規定です。
通常は翌年の2月上旬までですが、年の途中で辞めた人については1か月以内と別に定められています。
何に使うかというと、次の2つです。
- 年内に次の会社へ入社する場合、その会社の年末調整に提出する
- 年内に再就職しない場合、自分で確定申告をする
どちらにしても必要になります。「1か月以内」という期限があるので、待ちすぎないでください。
出典:国税庁「その他の注意事項」/2026年9月12日確認
なお、前職の源泉徴収票を次の会社に提出するということは、前職の会社名が新しい勤め先に伝わるということでもあります。職歴を隠せない理由のひとつです。この点は短い職歴・空白期間がある人の職務経歴書と履歴書の書き方で触れています。
もらう書類③:退職証明書は請求すれば出る。しかも書く項目を選べる
労働基準法22条により、退職した労働者が請求したときは、会社は証明書を遅滞なく交付しなければなりません。これが退職証明書です。
証明してもらえるのは、次の5つです。
- 使用期間
- 業務の種類
- その事業における地位
- 賃金
- 退職の事由(解雇の場合はその理由を含む)
そして、同じ22条の3項で、前2項の証明書に労働者が請求していない事項を記入することは禁じられています。
つまり、書く項目はこちらが選べます。
たとえば「在籍していた期間だけ証明してほしい。退職理由は書かないでほしい」という請求ができるということです。会社が勝手に退職理由を書き添えることは認められていません。
何に使えるか。
離職票はすぐには届きませんが、退職証明書は請求すれば早く出ます。そのため、国民健康保険や国民年金の手続きで「前の会社を辞めたこと」を示す書類として使える場合があります(自治体によって受け付ける書類が違うので、窓口で確認してください)。次の会社から前職の在籍証明を求められたときにも使います。
請求するときのコツは、口頭で済ませないことです。メールなど記録が残る形で、「労働基準法22条に基づいて退職証明書の交付を請求します」「記載を希望する項目は◯◯と◯◯です」と伝えてください。
出典:栃木労働局「退職時の証明(第22条)」。同ページに退職証明書の様式例も掲載されています/2026年9月12日確認
返すもの
返却物に法律の定めはありませんが、一般的には次のようなものがあります。
①健康保険証(または資格確認書)
これがいちばん大事です。会社の健康保険は退職日までしか使えません。返却が遅れると、会社の資格喪失手続きが止まり、その先の国民健康保険の加入や任意継続の申請にも影響することがあります。
マイナ保険証を利用登録していない人は、代わりに資格確認書が交付されているので、そちらを返します。家族の分(被扶養者)も忘れずに。
②社員証・入館証・名刺
自分の名刺だけでなく、取引先からもらった名刺も会社の情報として返却を求められることがあります。
③貸与品
PC・スマートフォン・制服・作業着・鍵・書籍など。通勤定期券も、会社が現物支給している場合は返却対象です。
④業務書類とデータ
顧客リストや作業ファイルの個人的な持ち出しは、トラブルの原因になります。「自分が作ったもの」でも会社の資産です。
退職の段取り全体は退職の流れに、有給の使い方は有給消化と退職日の決め方にまとめています。
最後の給料は、請求すれば7日以内
「最後の給料が、翌月の給料日まで振り込まれない」
これは、請求すれば変えられます。労働基準法23条により、退職した人から請求があったときは、7日以内に賃金を支払い、積立金・保証金・貯蓄金など労働者の権利に属する金品を返還しなければなりません。
「権利者の請求があつた場合においては、七日以内に」の部分がポイントです。請求すれば、通常の給料日を待つ必要がありません。
対象は賃金だけではありません。積立金・保証金・貯蓄金なども「名称の如何を問わず」返還の対象です。社内預金や、入社時に預けた保証金のようなものがあれば、これに含まれます。
金額でもめている場合も、全額が止まるわけではありません。同じ23条の2項に、こうあります。
前項の賃金又は金品に関して争がある場合においては、使用者は、異議のない部分を、同項の期間中に支払い、又は返還しなければならない。
争いのない部分は、7日以内に払わなければならないということです。「精算がまだなので全額保留します」という扱いは、この規定に沿っていません。
ただし、この請求をするかどうかは状況次第です。円満に辞めて、翌月の給料日でも生活に困らないなら、無理に急がせる必要はありません。生活費の見通しが立たないときの手段として知っておいてください。
出典:厚生労働省が公開する労働基準法の条文/2026年9月12日確認
届かない・もらえないときにできること
①源泉徴収票がもらえない
税務署に「源泉徴収票不交付の届出」という手続きがあります。会社に交付を促してもらえる制度で、国税庁のページに手続きが載っています。
②退職証明書を出してもらえない/賃金が支払われない
労働基準法22条・23条はどちらも使用者の義務なので、労働基準監督署に相談できます。相談は無料です。窓口は都道府県労働局・労働基準監督署の所在地一覧から探せます。
③離職票が届かない
ハローワークに相談できます。会社が手続きをしていない場合や、事業主と連絡が取れない場合も含めて対応してもらえます。
どの窓口でも、記録が役に立ちます。いつ・誰に・何を請求したのかが分かるよう、やり取りはメールなど文字が残る形でしておいてください。
退職時のチェックリスト
もらったか
- 離職票(-1・-2)※次が決まっていて空白がないなら不要
- 雇用保険被保険者証
- 源泉徴収票(退職の日以後1か月以内が期限)
- 基礎年金番号がわかるもの(会社が預かっていた場合)
- 退職証明書(必要なら請求する。書く項目は選べる)
返したか
- 健康保険証/資格確認書(家族の分も)
- 社員証・入館証・名刺
- 貸与品(PC・スマホ・制服・鍵など)
- 通勤定期券
- 業務書類・データ
確認したか
- 最後の給料の振込日(急ぐなら請求すれば7日以内)
- 未払いの残業代・経費精算が残っていないか
- 会社側の連絡先(辞めたあとに聞くことが出てくる)
書類が揃ったら、次は手続きです。健康保険と年金の切り替えは退職後の健康保険と年金の手続きに、失業保険は失業保険は20代でいくら?にまとめています。次の会社が決まっている人は、内定後の労働条件通知書の確認も忘れずに。
まとめ
- 退職時のやり取りはもらう・返す・払ってもらうの3つ
- 源泉徴収票は「退職の日以後1か月以内」に交付する義務がある(所得税法226条1項)
- 退職証明書は請求すれば遅滞なく交付される(労働基準法22条)。しかも「労働者の請求しない事項を記入してはならない」(22条3項)=書く項目を選べる
- 離職票の本人交付に期限はないが、会社の資格喪失届は「資格喪失日(退職日の翌日)の翌日から起算して10日以内」。待たされたら届出が済んでいるか確認できる
- 健康保険証(資格確認書)の返却が遅れると、その先の手続きが止まることがある。家族の分も忘れずに
- 最後の給料は、請求すれば7日以内(労働基準法23条)。争いがあっても、異議のない部分は7日以内
- 最後の給料からは、前年ぶんの住民税がまとめて引かれることがある(1〜4月退職は申し出がなくても一括徴収)。→ 退職後の住民税
- もらえないときの窓口は、源泉徴収票なら税務署(不交付の届出)、賃金や退職証明書なら労働基準監督署、離職票ならハローワーク
- 請求はメールなど記録が残る形で行う


